An excursion in Japanese from 2006

Riding the 7 Waves: Mastering Supply Network Dynamics in a Fragmented World

7つの波に乗る: フラグメント化した世界でサプライ・ネットワーク・ダイナミクスをマスターする

Version 1.1., April 26 2006

[Translated for me into Japanese from English original by Miss Shinoi Osuka]

Henk Akkermans Tilburg University, The Netherlands

本講演では、「今日の高度にフラグメント化した動的なサプライネットワークで成功するために、『七つの波に乗る』新しい種類の経営技術を身につける必要性がある」と言う議論を展開する。理想的な事業の状態と言うのは、いまだにリーン生産方式(敏速で均一に分散したマテリアルとサービス)として知られるトヨタ生産方式だ。しかし変化の早い外界からこの安定性を崩壊させる障害が何度もやってきて、今日の事業組織の中では、これらの障害がネットワークを通じて繁殖し増幅するのである。これらの障害を7つの『波』とし、サーファーが波乗りするようにこれを乗り切っていく。本講演では第一の波、『ブルウィップ(牛の鞭)』効果として知られるサプライチェーンでの上流需要の増幅、に焦点をあてる。そして全ての波について、電気、テレコム、航空、宇宙、バイオテック等のハイテク産業での現実のコンサルティングケースを紹介する。 この7つの『波』に立ち向かうにはかなりの勇気が必要だが、新しいスキルも必要で、それは特にシステム思考とダイナミックシミュレーションを、あまりに動的で複雑なために単純な管理思考や封筒の裏でやった計算では到底理解できないような現象に適用するスキルである。

I. 序論:7つの海への航海から7つの波に乗ることまで  

西暦1600年4月19日、オランダの帆船「デ・リーフデ号」が日本の九州東岸に到達しました。凄まじい航海でした。最初の船員110人中24人だけが生存し、その中、最後まで自力で立つことができたのはたったの5人だけでした。デ・リーフデ号は約2年前にロッテルダム港を他の4隻の帆船と共に出港しました。 一隻だけはどうにか本国に戻ることができたのですが、他の船は太平洋で難破したり、チリでスペイン人の捕虜になったり、モルッカ諸島の近くでポルトガル人に虐殺されました。

その当時のオランダ人は、世界の七つの海を航海する方法を学んでいた時代であり、正にこれは非常に危険な冒険でした。この航海は、アフリカ経由の通常のルートは使わず、以前にイギリス人の発見者フランシス・ドレイクが航海したように、南米経由で極東地域に到達するルートで出港したのです。フレミングの商人二人がこの探検の資金援助をしましたが、彼らの意図は羊毛生地を売るか、南米にある金持ちのスペイン植民地を略奪するかのどちらかでした。

この冒険はすべて失敗に終わりました。しかし、振り返ってみると、この航海は逆に失敗ではなかったのです。当時世界で最も裕福で発展した国の一つであった日本の、後の支配者となった徳川家康は、これらの異国人の到着に注目しました。この航海のおかげで、オランダは1641年以降、日本との貿易を許される唯一の西洋人の地位を確保することができたのです。1602年に設立されたオランダ東インド会社が行ったこの独占的貿易は、17世紀全期間にわたって大きな利益をオランダにもたらしました。この結果、この貿易から得られた利益は当時のオランダの富と勢力に大きく貢献し、今ではこの時期をオランダの「黄金の世紀」と呼んでいます。当時のオランダは小国であるにもかかわらず、海上軍事力および経済力での巨人ということだけではなく、レンブラント、フランス・ハルスのような画家を育てた美術分野においても、またアントニ・ファン・レーウェンフック、スピノザ、メルカトル、フーゴー・グロティウスのような学者を育てた科学分野においても世界の中心でした。

17世紀の世界経済においては、7つの海を航海する技術に熟達することが、成功の鍵でした。これは、未知で危険な冒険の時代だったといえるでしょう。なぜなら、当時はまだ世界の海や新開地に関する知識が非常に限られており、どこでどのような危険に遭遇するかわからないような状態だったからです。それでも人々は冒険に挑戦しました。冒険で得た海と海岸の情報と適切な航海技術は、迅速に後継者に還元されました。無知な開拓者がとるリスクは、常識のある人には到底考えられないようなものでしたが、博識なオランダ東インド会社の船長にとっては、7つの海の航海から得る利益を考えると、その危険を冒す価値があったのです。

経済の世界では、私たちは今、当時と同じような激変の時代に生きていると私は確信しています。つまりリスクも非常に大きいが、その報酬の可能性も非常に大きい、という時代にあるのです。繰り返していうと、無知な開拓者は、単におろかであったか、よく言ってもラッキーなおろか者だったかもしれません。しかし、充分な知識があり、適切な技能を適用することを前提にした場合、知識に富んだ船長と同じように、現代の起業家はリスクをコントロールすることが可能なのです。もちろん、多少異なることもあります。例えば、競争は国との間ではなく、サプライ・ネットワーク間です。また、もはや7つの海を航海する技術ではなく、7つの波、つまりサプライ・ネットワーク・ダイナミクスの7つの波を乗りこなす技術に熟達することが、成功への鍵なのです。

この本質的にダイナミックで複雑な現象を、熟知し、制覇するためには、新しいことを習う勇気が必要ですが、それ以上に新しい一式の思考技能が必須となります。これはシステム思考のスキルです。システム思考は、時間と空間において、遠くに見える出来事を、非常に近く容易に関連づけて見るのに役立ちます。またこれは、こうした具象の先を判断したり、根元的な原因構造を見たりするのにも役立ちます。今日のサプライ・ネットワークにおける構造と行動を連結するものはあまりに複雑なため、頭の中でシミュレーションを行うだけでは理解ができません。 現実的に、このネットワークの動的な複雑さは、人間の頭で把握するには複雑過ぎて、コンピュータのシミュレーションが必要です。システム・ダイナミックスは、システム思考のためにコンピュータのシミュレーションを使用する学問であり、ithinkは、必要な主要分析ツールを提供した最初のソフトウェアパッケージです。

この講演で今から、これら七つの波の概念を説明します。 時間に制限があるので、一つだけに焦点を当てますが、その基本となるシステム・ダイナミクス構造の数学的側面に関しては深く説明はしません。この波の実例として、エレクトロニクス会社で経営コンサルタントとして自分自身が行った事例研究を簡単に説明します。その後、他の6つの波とそれらの実例についても簡単に説明します。そして、ビジネス、研究、および教育分野で、この七つの波に関係する結論をいくつか述べて終了とします。

II. 理想の状態とは速く均等な流れ  

サプライチェーンやネットワークにおいて理想的な状態とは何でしょうか。それは速くて均等な流れです。この概念は何世紀にもわたって文明社会に存在してきましたが、この概念をより明確に世界に初めて提示したのは、トヨタ生産方式でした。理想的な業務状態とは速くて均等な流れです。では、これはなにを意味するのでしょうか。実際にビジネス界で、これを実行しようとすると非常に難しく思えますが、日常生活ではごく簡単にできることです。まるで、子供とバトミントンで遊ぶように簡単なのです。

皆さんはバトミントンで遊んだりしますか?私の母国のオランダでは、夏の夕方、芝生の上で、バトミントンで遊びながらくつろいだ一時を過ごすことがよくあります。 昨年、私は初めて次男とバトミントンをしました。私たちの目標は、羽根を地面に落とさずに、できるだけ多く羽根を打ち合うことでした。長男とプレイした時には、百回ぐらい落とさずに打ち合いました。男の子の意地でしょうか、弟も少なくとも兄と同じ回数を打ち合いたいと思ったようです。

最初はうまくいきませんでした。良くて連続3、4、5回ぐらいでした。なぜかというと、羽根を打つ度に違った方法で打っていたからです。高い、低い、左、右、早い、遅いと規則的ではなかったのです。二人ともタイミングが遅すぎて、うまく打ち返せないということがよくありました。しかし、じきに上手になり始め、何回か羽根を相手方に同じように打ち返すことができるようになりました。同じ高さ、同じ角度、同じ速度でプレイする。つまり、ラケットを同じ位置で構え、同じ方法で打ち返すことが良いということがわかってきました。規則正しく動くことがポイントだったのです。こうして30回、40回のレベルに達しました。速くて均等な流れで、落とさず打ち合いました。しかしTPS、ジャストーインータイムといえるレベルではありません。ワールドクラスとも言えません。連続百回の打ち合いまでにはほど遠いところでした。

数分打ち合った後、別の現象に気がつきました。まず、規則的な打ち合いをやっている時に何か障害が起きると、回復が難しくなります。 突風が吹いたり、芝生で滑ったりすると、前の不規則な打ち合いのように、すぐ羽根は地面に落ちてしまいました。しかし私たちも前より少し上達していますから、障害が起きても立ち直ることができるようになりました。素早く後退したり、高く打ち上げて相手に立ち直る時間を与えたり、打ちそこないそうな羽根には腕を伸ばしたり、打ち合いを続行することができるようになりました。まもなく百回の目標を達成しました。これで息子の寝る時間となり、その夜、彼はぐっすりと眠りました。

つまりこれが今日のネットワーク・ビジネスの挑戦なのです。速くて均等な流れで、規則的に予測が可能な状態、つまり生産性が高く、無駄が少ない状態になるだけでなく、それ以上に、予定された出来事に予期しないことが起きた時それから回復する能力、不安定な環境において安定した業務を行うことが、生き残りの鍵なのです。波を乗りこなす能力が必要なのです。

III. 第一の波:サプライチェーンの増幅と振幅  

では皆さん、次の思考の実験をすると考えてください。車線が4つある混雑した高速道路を想像してください。皆さんは左側の車線を時速100キロで走っているとします。そして、これは通常は無駄な動きとなりますが、トラックが右側の車線から、左側の別のトラックの前に割り込もうとします。ヨーロッパの場合だとして、左車線の平均時速を100キロとし、割り込みの結果時速が90キロに落ちます。つまり10%減少したと想定します。何が起きるでしょうか。このトラックの真後ろの車は、大きなトラックが自分の前に急に割り込んできたので、1秒以内にブレーキをかけてスピードを落とします。しかし、反応が少し遅れて前のトラックに近づきすぎたので、90キロというよりも、むしろもう少しスピードを落として80キロとします。その車の後ろの車も同じパターンで、反応が少し遅れてスピードを70キロに落としたとします。このように、最初は左の車線の車がすべてスムーズに時速100キロで走っていても、スピードは時速10キロ、20キロに落ちる可能性があるわけです。その後、スピードは再び加速され、多分時速100キロに戻るでしょう。このようにこの特定のダイナミック・システムにおいて、車の時速が最大変化で10%落ちるインプットは、システムの行動の最大変化として、アウトプットで-80%、-90%になるという結果になります。専門的に言えば、これを増幅率8もしくは9と呼びます。

この「上流増幅」現象は、多くのサプライチェーンで起きます。特に ハイテクのサプライチェーンでは悪名が高い現象です。これは、「ブル・ウィップ現象」と呼ばれ、牛を追う鞭という意味ですが、的を得た表現です。サプライチェーンの下流で起きるすべての変化は、一段階前の上流に相対的に大きな影響を与え、増幅率は1.0以上となります。例えば、携帯電話の売上が10%増える想定をすると、携帯電話に使うチップの半導体業界への発注量は30%増え、さらに、ICの生産に使う新しいウェハー・ステッパーや他の機器の発注量も、問題なく毎年2倍ずつ増えるでしょう。この現象は1950年代後半にジェイ・フォレスター教授がすでに発見し、見事に解析したもので、彼の著書「インダストリアル・ダイナミクス」で説明しています。この本は今でもすべてのシステム思考家の必読書となっています。

変化の認知からそれに反応する間に起こる遅延は、ブル・ウィップ現象の部分的な説明にはなりますが、それ以外にもあります。ブル・ウィップ現象に関する研究のいくつかは、サプライチェーンの参加者の部分的な最適化行動が、全体の最適化を2次的なものにすることに焦点を当てています。この行動の重要な種類のひとつに「不足のゲーム」があります。1999年、携帯電話メーカーはこの業界の半導体メーカーが需要についていけないと気がつき、ICの発注量を異常に増やしました。ICメーカーは100個製造でき、私と私の競合メーカーがそれぞれ60個必要な場合、ICメーカーが自分の在庫を公平に振り当てるとしたら、両者とも通常50個ずつ得ることになります。しかしそこで私が嘘をついて90個求めたとします。するとICメーカーは全体の需要が150個と考え、この150個を公平に振り当てようとする場合、自分の生産能力の1.5倍を求められていることになります。そこでICメーカーは3個の需要につき2個出荷することにします。こうして、私は必要な60個を得る一方、私の競合メーカーは40個だけしか得ることができない、ということになります。あなたがたの競合メーカーが同じアイデアを思いつかない限りは、これは素晴らしいアイデアなのです。しかし、このように全体的な需要が架空に膨れ上がり、誰にとっても状況が悪くなってしまうのです。

このように、よくありそうな行動がブル・ウィップ現象の「いつもの容疑者」であり、過去の好景気と不景気を振り返って分析すると、時々それが起こっていたことがわかります。残念ながら、このようなルーチンは、通常、次の好景気には忘れ去られています。サプライチェーンにおける需要増幅のほぼ明らかな原因は、在庫管理システムです。そもそも在庫の意図とは、環境の変動を緩衝し、変動の原因を和らげるものではなかったでしょうか。そうなのですが、それには正しいアルゴリズムが必要です。

広く使われている在庫管理方法は、在庫量をあるXという量まで確保するというルールです。Xというのは、平均需要の何週間分という数で、将来のある期間に対して予測した需要を考慮し、Xという在庫をできるだけ確保するために必要な生産をいつも行うことになります。 妥当に思えるでしょう。しかしここで在庫を確保するのに3週間かかると想定します。そこで1週間の需要は10%増えます。通常、想定量まで生産するというルールの前提は、少なくともこれから3週間にわたって需要は高いレベルに維持される、ということです。これは10%ではなく10%の3倍の生産を開始するということを意味します。そういうわけで30%以上の材料を発注し、増幅が再開されることになるのです。 これは不適切な在庫管理方法に予定外の不安定な影響があった一例です。MRPシステムは通常この方法で機能し、このMRPがERPの基礎となります。品物の流れを制御するシステムの土台を作るために、多くの企業は、ERPに何十億ドルも投資したのではなかったのでしょうか。正にそうです。そんなに多くのレミング(たびねずみ)たちが間違うはずがないという理由で、このシステムのアルゴリズムが、サプライチェーンを機能させるために必要なものであるかどうかなどと、疑問を持つような人はほとんどいませんでした。ERPは古い技術のシステムのパッチワークを取り除くのには良いかもしれませんが、そこに内蔵する生産管理システムとしてのMRPアルゴリズムは不適切です。ERPシステムが改良されて、高度計画システム(APS)が出現したのですが、管理が良くなるということはありませんでした。というのも内蔵のモデル自身に欠陥があったからです。

それでは、需要の過大な増幅を抑えるにはどうしたらよいでしょうか。明らかに、サイクル時間と注文を満たす期間の両方で応答の遅延を短縮することですが、それよりも良い方法としてはプッシュ方式の代わりにプル方式を使用することです。MRPはサプライチェーンで品物をプッシュする方式です。しかし必要なものだけをプルする方式にしたら必要以上のものは作らないでしょう。それには生産サイクル時間が充分に短いことが前提となります。これがトヨタ生産方式、ジャストーインータイムのカンバン方式、リーン生産方式の一つの主要なアイデアなのです。

サイクル時間短縮およびプル方式の多くの落とし穴の話を進める前に、先ほどの交通混雑の例に戻りましょう。ここでは単に増幅だけでなく「振幅」もあるのです。振幅とは長期間を平均的に見て繰り返し起きる変動で、ブル・ウィップ現象を視覚的に想像するとよく判りますし、これはオランダ通勤者が毎日の運転で経験しているものです。高速道路の運転速度は早くなったり遅くなったりします。一回だけでなく何度もこれが繰り返えされます。事実、無限数のトラック運転手が右車線から次から次へと左車線に変更することは明らかです。振り子を一回押したら長期にわたって振り続くように、多くのダイナミック・システムでは、持続的な、または少なくとも長く続く振幅を起こすには、障害を一回だけ発生させればよいのです。

ここで注意すべき重要事項は、多くのサプライチェーンは「本質的に不安定」だからこのようなことが発生するのだ、ということです。数学的観点から言えば、特定のパラメータ設定に対して安定した平衡値が存在しないシステムに属します。ここでの重要なパラメータ値はシステムに存在する種々の遅延の長さです。何が「正しい」長さであるか、相互関係がどうあるべきかに関しては単純な解答はありません。何が可能かというと、システム構造のシステム・ダイナミックス・モデルを作成し、パラメータ値を何にしたらシステムは、障害一回発生後、振幅開始をするか、システムがいつ安定になるか、という感度分析を行うことです。数値が少し変わるだけで、どのようにして本質的に不安定なシステムが安定なシステムになるか、また、あるパラメータ値がまったく制御できない変動をどのように起こすか、試してみたら驚く結果がでるはずです。

IV. 事例:フィリップス・エレクトロニクス社のDVDドライブ部品の需要増幅

フィリップス・エレクトロニクス社は、長年にわたり世界のエレクトロニクス会社の中でも上位10社に入る会社で、私が過去十年間にわたり研究およびコンサルティングの仕事をした会社のうちの一社でもあります。本社はオランダのアイントホーフェンに在り、私が博士号を取得したところでもあります。1999年に、フィリップス・エレクトロニクス社のサプライチェーン・マネージャが、自社のDVDドライブの需要が急増し、自社のIC生産が追いついていけないという予測を私に報告してきました。この予測は妥当なものでした。まさにDVDプレイヤーの市場は好景気で、DVDプレイヤーの重要な部品であるDVDドライブの最新で最も早いものに対する需要は非常に大きいものでした。

当時、フィリップス社はこのドライブでは世界の3分の1のシェアを持っていました。このようなドライブを製造するには、複雑でカスタマイズされたICが必要で、フィリップス社の半導体部門が開発し製造していました。第1図が示すように、当時のICの総括的需要はどの市場セグメントでも好調でした。一年間で30%の増加は非常に大きい数値です。なぜそのような上昇があったかというと、もちろんDVDプレイヤーに対する需要が増えたからですが、特にテレコム製品に対する需要でした。エレクトロニクス機器の全体的な生産量が30%増えたでしょうか。そうではなく、その増加率は多分10%ぐらいだったでしょう。しかし増幅現象がDVDプレイヤー需要を30%まで引き上げたのです。DVDプレイヤーに対するICの需要はどれくらい増えたかというと、それ以上でした。フィリップス半導体部門に対する市場の需要は2倍になったので、100%以上の増加でした。過去、現在においてもICの製造に使われるフォトリソグラフィー機器ではトップのサプライヤーであるASML社にどのような影響があったかは想像がつくかもしれませんが、ここで起きた変化は想像しがたいものでした。

このひどい増幅現象を克服するために開発されたものが、いわゆる共同計画プロセスというもので、第2図に示めされています。このプロセスは何をもたらしてくれるのでしょうか?自身の製品に対する需要が高まる事態に直面している顧客は、典型的には、短い、例えば1ヶ月のリードタイムを基にそのサプライヤーへの注文を増やすとします。しかしサプライヤーは生産を増やすには2、3ヶ月かかるのでそのような増加には対応できません。この時点から生産率を上げることはできますが、生産が追いつくには2ヶ月かかります。ですからサプライヤーが顧客から必要なものは、実際に数週間前に注文をする場合でも、顧客が3ヶ月以内に「期待」する販売量がどれくらいなのかという信頼性のある正直な予測です。 一方、顧客が必要なものは、サプライヤーの供給ルートには何があるかの実態です。これから先10週間にサプライヤーが100個以上生産する能力がないことが顧客に判っていれば、来週200個を要求してそれに合わせて生産工程を組むことは意味がないことが顧客には判ります。

したがって、サプライヤーと顧客の各部署の計画者がそれぞれ毎週一緒にサプライチェーンの供給ルートと顧客の販売予想のデータを見るプロセスを組み立て、問題の解決を試みました。しかしこの段階を踏む前に、一つの重要なサプライチェーン設計問題に対するシステム・ダイナミックス分析が必要でした。サプライチェーンの中間にある請負製造業者をどうすべきか、という問題です。ほとんどのエレクトロニクスのサプライチェーンでは、簡単な組み立て作業の中間工程には外注先、請負製造業者、もしくはエレクトロニクス業界ではEMSと呼ばれている業者を使っていたからです。どのような範囲にわたって業者を参加させるべきでしょうか?

この疑問に答えるために、サプライチェーンのマネージャのための3段階のサプライチェーンのシステム・ダイナミックス・モデルを作成しました。このモデルの共同分析の結果、請負製造業者を意志決定段階で積極的に参加させる必要はないことが判りました。サプライチェーンの初めと終わりが同期的に動けば、同期プロセスで積極的に参加しなくても、中間工程も安定することが判りました。

事実、分析の結果、サプライヤーと顧客と同様にこのやり方で請負製造業者も大きな恩恵を受けることが判りました。顧客はより上手に早く市場に納品するようになりました。請負製造業者はより安定した状態で生産でき、製品のライフサイクル終了時の在庫もより良く管理されました。 サプライヤーの増幅も非常に減り、最終的には廃品の在庫も減少しました。

V. 他の6つの波

サプライ・ネットワークのダイナミックスにおける第一の波、つまり、サプライチェーンにおける顧客の需要率の上流増幅と振幅、に関して説明してきました。2000年のフィリップス半導体部門の共同計画プロセスという、実社会における初めての事例についてお話しました。

第二の波も増幅ですが、これはサービスの内容に関係しています。これは、仕事量、誤差率、やり直し作業の悪循環のサイクルです。ここでは充分に詳細な説明をする時間はありませんが、本質的にはその概念は次のようなものです。コールセンターのようなサービス部署の人たちの余分な仕事が、突然、急激に増加した場合を想定してください。例えば販売キャンペーンがうまくいった結果、彼らの仕事量が急激に増えたとします。この増加が著しくなると、仕事量が通常の状態の時よりも、多くの間違いを犯すようになります。その結果、間違いを修正する必要のある仕事量がさらに増えてしまいます。通常、間違いを修正するのに必要な時間は、最初に正しく行う時間よりもかなり多くかかります。すると仕事量がさらに増え、もっと間違いが起きる結果となり、さらに仕事量が増えることになるのです。そうこうするうち、受注の充填にはさらに時間がかかることになり、結果、顧客からの電話量が増えることになります。そして、間違いはすべて処理されることなく次の段階に持ち込まれ、そこでの仕事量も増え、間違いも増えていきます。

私は1995年にシカゴのアメリテック社のために、現実社会の事例を反映したモデルを作成しました。積極的な販売キャンペーンの結果、販売受注量が14%増えたのですが、その結果、下流段階での仕事量が142%から254%までも増えたことを、モデルによって示すことができました。このモデルに基づいて、経営陣は、新しい販売注文書を会社のITシステムに間違いなく入力する事が、確実に行われるように、かなりの投資をすることを決定しました。

第三の波は長期的視点に焦点を当てます。売上増加と生産能力に対する投資との相互関係に関するものです。特にハイテク業界、高速高成長業界ですが、通常、企業に好評な製品があり上手に納品できると、売上高は増えます。しかし、この売上高の上昇に追いつくための生産能力への投資は、だいたいいつも遅れがちです。その結果、仕事量が再び増え、納品の実績が下がり始めます。すると顧客満足度が下がり、顧客からの需要も下がり始めます。通常、売上成長率が大きい時期に注文した生産設備が稼動可能になるまでには、顧客からの需要は最低レベルまで落ちてしまいます。そこで会社はその生産能力を縮小するように試み、また時間をかけることになります。すると同時に、顧客の要望を満足できるような生産余力ができたので、顧客からの需要が増えだします。こうして第2次の需要と供給の不安定性のサイクルが開始するのです。最初にシステム・ダイナミックスを開発したMITのフォレスター教授は、この現象を1968年にすでに説明していました。

私は、かつて私の生徒であり、現在フィリップス社で働いているジャン・ヤープ・ベゼメーと一緒に、2002年にフィリップス半導体部門で同じ現象の分析を行いました。そしてこの会社では未だに以前と同じプロセスが働いていることを示したのです。私の博士号研究のための私のアドバイザーであったヴァン・アケン教授も、彼自身の博士号研究を1970年代にフィリップス社で行いましたが、その時代から続いている同じプロセスです。

第四の波は製品開発と生産とのインターフェースにおいて起きるもので、それはハイテク・サプライチェーンの非常に動的で、あまりよく理解されていない部分です。製品開発において、コンカレント・エンジニアリングという方法がどんどん適用されるようになってきています。コンカレント・エンジニアリングでは、次段階の開発プロセスが、前段階が完了する前に開始されます。ということは不完全な情報に基づいてプロセスを開始するので、インプットが当然変更されることになり、そのプロセスのアウトプットにもなんらかの変更が発生することになります。

原価計算において、コンカレント・エンジニアリングはよく不承認となります。これは仕事の過度な重複が想定されるため、設計に過度な時間を費やし原価が高くなる、という理由からです。これは真実かもしれませんが、オランダの前フォッカー社で、今のストーク・エアロスペース社の人たちと一緒に、2002年にこの問題に関して本格的なシステム・ダイナミックスを適用したことがあります。前フォッカー社はボーイング社が選んだサプライヤーの一社であったため、ボーイング社での新たな航空機開発プログラムの、サプライチェーン設計段階において行ったものです。

SDシミュレーションを行って発見したことは、コンカレント・エンジニアリングは従来の設計方法に比べてそれほど時間がかからないということです。しかし何が良いかというと、コンカレント・エンジニアリングを使用すると、かなり早く完了するということです。つまりそれは、下流の設計過程にいる人たちが早くスタートするからです。このために、上流過程にいる人たちに、間違いや矛盾に関するフィードバックをかなり早くから行うことができるようになりました。確かに細かい仕様は後日変更されますが、手元の設計作業に関して、より早く学習を開始することができるわけです。

しかし原価計算のスペシャリストは、早く完了することで納得するでしょうか。 完了が早いということは、安いということにはなりませんよね。実は、安くなるのです。私たちのシミュレーション・モデルでは、これらの設計データを、生産の人たちがより早く入手できれば、設備準備段階もより早く開始でき、仕事の重圧も少なく、その結果、学習して準備を完了するチャンスがより多くなります。すると、生産開始が遅れたので多くの余分な未訓練のスタッフを雇う、などという、過去に何回も起きたであろう事を繰り返す必要がなくなります。このように、コンカレント・エンジニアリングの原価における含みは、次の段階である工業化および生産増加の段階での原価を、より安くすることができる事にあります。

第五の波はサプライ・ネットワークの反対側に位置するマーケティングに起こります。これに関しては1994年にバイオテク業界で研究を行いました。当時私が仕事をした会社は、シネージェンという、現在のバイオテク企業でリーダーの位置にあるアムゲン社が、後日に買収した会社です。シネージェン社には開発段階で非常に有望な医薬品があり、市場で販売許可されれば何百人もの命を救う可能性がありました。会社の経営陣と一緒に行った私の調査では、この医薬品を市場で発売するだけでは不充分である、ということでした。ロンドン・ビジネススクールの私の同僚であるキム・ワレンが呼ぶところの、相互依存のリソースというものをいくつか整備することも必要でした。医薬品の市場発売が開始されても、医師がこの医薬品を処方するためには、地元で入手可能になっていることが必要です。したがって、製品の流通網を事前に構築することが必要となるわけです。また、医師は彼らが尊敬する同僚からその医薬品はよく効くと聞いた時だけそれを処方するので、この新医薬品を知っていて真価を認めている、先導的な開業医のネットワークを作っておくことも必要なのです。三番目に、この新しい医薬品が発売された時にすぐ注文を受け付けられるように、24時間注文をとることができる良いコールセンターを準備しておくことも必要です。このような相互依存のリソースが整備されない限り、いくら効き目の良い新医薬品が患者のためにあっても、医薬品販売は成功しないのです。残念ながらこの特定の医薬品は臨床試薬段階を合格することができず、市場に受け入れられることができませんでした。

第六の波はもっとソフトで無形なものです。 バイヤーとサプライヤーとの関係性の質に関するものです。 バイヤーがサプライヤーを信用しない、また逆の場合も、両者はお互いにすべての関連情報を分かち合いません。そうするとどちらも正しい情報がないので正しい決定をすることができません。その結果、両者の協力体制や業績が弱まります。これはお互いの信用をさらに傷つけ、情報を分かち合うことがますます少なくなります。

私はバイヤーとサプライヤーの関係において、信用度、透明性、業績がどんどん低くなるという悪循環の現象に直面しました。オランダで大手のテレコム・サービス・プロバイダーであるKPNテレコム社の事例は、非常に明快な事例の一つです。オランダで最大のIT企業で、KPNのITシステムを運営していた会社であるアトス・オリジン社との関係で大きな問題がありました。2004年にシステム・ダイナミクスを使用して、一連のグループモデルを作成する会合を行い、この悪いサイクルを有益なサイクルに変更することに成功しました。つまり、それぞれの当事者が相手方を信用すればするほど、より多くの情報が共有され、よい意思決定ができ、さらにお互いを信用するようになったのです。

これらの結果は「気持ち良い」会合を行う以上のものになりました。テレコム・サービスの新たな据付件数という一面で言えば、最初に据付が適切に行われなかった割合は、一連のシステム・ダイナミックス会合を開始してから数ヶ月後には半分となり、1年後にはさらにまた半分となりました。またIT上の問題は、このプロセスでエラーの起こる最大原因の一つであることが判明しました。エラー率の低下は、顧客満足度とサービス技術者が節約した時間数に大きなインパクトを与えたのです。

第七の波は再度ソフト的なものですが、それにもかかわらず非常に重要なものです。組織変革というか、むしろその欠如に関連したことです。多くの組織においては、必要な変革が実際に実施されるためには時間がかかります。常に、外界の変化に追いつくために必要な変革を実施しようとすると、内部的圧力が蓄積されます。しかし見かけ上、組織的惰性や変革への抵抗などの理由で、明らかな変革が起きません。この結果、圧力が非常に大きくなり、ついには変革が起き始め、その時必要な変革は非常に大きいものとなります。そして再度、増幅が起きます。私は現在、ストーク・エアロスペース社の組織再編成のプロジェクトで、これを再度経験しています。1996年にフォッカー社が破産し、ストーク社に買収された後、変革を行う大きなエネルギーに満ちていました。しかし911のテロ事件後、航空機産業に起きた強烈な変革の波が起こったにもかかわらず、前フォッカー社組織ではそれに相当する変革が、2006年初期まで実施されなかったのです。すぐに変革を開始していたら、今ほど強烈で苦痛な変革をする必要はなかったでしょう。

VI. 結論

サプライ・ネットワーク・ダイナミックスの7つの波を乗りこなすプロフェッショナルな世界で私は生きています。私は三つの非常に異なる役割の中でこれを行っていますが、そのどれにでも皆さんが参加できるようにご案内します。コンサルタントとしての私は、非常にダイナミックな業界で生き残るために奮闘している企業や人々の役に立つように、こうした洞察を業界のために使用しています。研究者としての私は、これらのダイナミクスにおけるより基本的なパターンを発見し、サプライ・ネットワークの管理方法の学術的知識をさらに強化することを課題としています。

また教師としては、この分野の創立者であるジェイ・フォレスターの例を述べさせていただきます。40年以上にわたって企業や経営者たちと共に働いてきた88歳の彼は、今日ではシステム思考の原理を8歳から16歳の子供に教えることに焦点を当てています。フォレスター教授は、この年齢の時にメンタルモデルを変えるのが最善であり、人々がすでに組織の高位に到達した段階では遅すぎる可能性があると信じています。私は19歳から22歳の年齢である大学2年生を教えていますが、すでに遅すぎないことを祈っております。  皆さんが7つの波を乗りこなすために熱意をもって私に加わってくれることを期待しています。7つの波に乗るためには、

皆さんがシステム・ダイナミックスを理解することが本当に必要です。皆さんが、企業や学校や教育分野で働く一人として取り組むことが必要なのです。言うまでもなく、これら3つの分野の人々が一緒になって取り組み、その知識や洞察をお互いに交流し、育て上げて初めて、成功することができるのです。この相互交流の必要性を理解するためにシステム・ダイナミックスは必要ないかもしれませんが、役に立つでしょう。

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